『じごくゆきっ』(桜庭一樹/集英社)
※一部ネタバレ表現があります。ご注意ください。
読み終わった日:2020.8.9
◯はじめに
・後味の悪さが絶妙
すごく悲しいとかすごく怖いとかじゃないけれど、全部読み終わった後にどれだけおもしろいものを見ても大爆笑はできないな、という後味の悪さ。ダークポップって感じ。ダークポップという単語があるのか知らないけど。
◯好きなところ
・短編集ありがとう
純粋に感謝したい(?)。1つの話はその日のうちに読み終わってしまいたいタイプの人間なので本を読む時はそこそこ気合を入れてから表紙を開くのですが、短編集なので数日に分けて読むことができる!!ありがてえ。そしてどの話を読んでも後味の悪さが付きまとう。凄い。気持ち悪い(褒めてる)。
・子供っぽい怖さ
子供の頃に見る悪夢みたいな、暗い部屋で不気味に主張する子供が描いた絵みたいな、そういう怖さを文字で味わえる。凄い。故に「とても怖い」ではなくて、表現するなら「なんか気持ち悪い」。作中では子供から見た大人とか、大人の怖さとか、社会の怖さとか、そういうものも描かれているのだけど、主に子供視点で描かれているが故にそれらがより一層「よくわからないもの」になっていて、気持ち悪いんだよなあ。
・言葉の表現
子供視点が多くかつ主人公視点で進む話なので、言葉の表現が全体的に子供っぽく、口語っぽくなっているのだけど、それでも表現がいちいちおもしろいんだよな。難しい言葉を使ってるわけでもないし単語だけなら子供でも理解できるものなのだけど、言い回しがすごくおもしろくて、そういうところにも滲み出る不気味さ。気持ち悪さ。素敵。
・どの話も雰囲気が違っていて、でも同じ
話の終わりから始まりへ向かうと、感じる雰囲気が全然違うなと思う時があった。でも、読み終わったらどの話も全部似た後味をしている。すごく不思議な感覚だなあと思いました。
・伏線回収ありがとう
最初に「暴君」、最後に「脂肪遊戯」の伏線回収感がとても好きです。伏線回収と言っていいのかわからないけど。全部読み終わった後、改めて「暴君」を読んで気づくこともある。好きです。
◯あんまり好きじゃないところ
・主人公視点なー。
そもそもの話をしてしまうのだけど、主人公視点の小説って苦手なんだよね。今回この本読んだのは、何かのフェアの冊子に載ってて気になったからで、本屋で手にとっても1ページ目で違うなって思って買わずにいるような気がする。と思って今1ページ目めくって読んでみたけどなんだかんだ言って興味惹かれるのかもな。わからん。
この作品がどうとかより、主人公視点の話苦手なんだよな、というだけです。
・結局なんなんだろう、と思う話があったりとか
短編ゆえなのか、作品の雰囲気ゆえなのか、結局どういうことだろう、という話があったりなかったりしました。それもそれで雰囲気として楽しめたのだけど、こういう形の作品じゃなかったら「いや、それでなんやねん!」とツッコんでしまいたくなったかもしれない。結局なんなんだろう、と思うことがそもそもナンセンスなのかもしれないけれど。
◯おわりに
・怖い夢を見た
どんな夢かは覚えてないけど何か怖い夢を見た、というような気分を味わえる作品かなと思います。最後の最後にこの表現思いついてしまってちょっとだけクソッという気持ちなので、ここに記しておきます。
強いて言うなら「ロボトミー」が結構好きでした。気持ち悪さでいうと「ゴッドレス」が強い。お好みの気持ち悪さを探してみてください。